近年,機械学習を用いる化学反応の予測やデータ解析が盛んに行われている。中でも画像(写真)を入力データとする機械学習は結晶性化合物との相性が良く,結晶化条件の探索や生成物の分類などに広く利用されている1)。
筆者らは,結晶性固体混合物の写真と混合比を教師データとし,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を使って機械学習モデルを作成することで,写真から混合比を予測するシステムを開発した2)。ショ糖と食塩の混合画像(図)からは,平均絶対誤差3.9%で100枚の画像を1分以内で解析できた。モデルの構築には化合物ごとに50~300枚ほどの画像を教師データとして必要とするものの,グリシンの結晶多形の比率,酒石酸の鏡像体過剰率,固相反応の収率など様々な固体混合物の比率予測や分析に応用可能であった。
CNNでは様々な特徴量が抽出できるが,色が異なる試料では精度の高い予測が行えることもわかった。ペロブスカイト型酸水素化物BaTiO3-xHxの分析では,写真からヒドリド量xを平均絶対誤差0.009で非破壊的に予測できた3)。画像機械学習を用いる連続的な分析から,この酸水素化物の温度に依存した水素放出量の変化も明らかとなった。今後,画像機械学習による分析を起点とする新しい物質や反応の発見も期待されている。
1) 例えば,J. Kirman et al., Matter 2020, 2, 938.
2) Y. Ide et al., Ind. Eng. Chem. Res. 2023, 62, 13790.
3) T. Sano et al., ACS Appl. Eng. Mater. 2024, 2, 2391.
猪熊泰英 北海道大学大学院工学研究院