高分子の主鎖に沿った異種モノマーの配列(シークエンス)は,その機能発現において重要な因子である。しかし,共重合は一般に確率過程で,得られる共重合体は様々な配列の集合体となる。配列分布は鎖の配座を柔軟にし,環境に応じた自己最適化能力をもたらすため1),適切な配列分布の制御が重要となる。配列分布は短鎖配列の出現頻度により評価できる。しかし,広範なモノマーに適用できる分析手法は確立されておらず,これが配列分布制御の障壁となっている。
そこで筆者は,共重合体を熱分解により断片化し,気相で質量スペクトル(MS)を得ることで,配列分布を評価するポリマーシークエンサーを開発した。図はn-ブチルアクリレート(X)とスチレン(Y)の1:1ランダム共重合体のMSで,1~7量体程度の短鎖配列に応じた質量値にピークパターンが現れた。しかし,MSでは分子種ごとにイオン化効率が異なるため,単純なピーク強度比から短鎖配列の出現頻度を定量化できない。そこで,規則配列鎖の適切な混合によって観測フラグメントを再現する手法を考案した。実際に,規則配列スペクトルを線形結合することで観測スペクトルを良好に近似でき,その結合係数を配列分布とすることで,2~3元系共重合体の配列分布の視覚化に成功した2)。この手法では,規則配列スペクトルをどのように取得するかが問題になる。規則配列共重合体は合成不能なため,ランダム共重合体のデータセットに教師なし機械学習を適用し,仮想生成した。この手法を標品フリー定量MSと提唱し,配列解析のみならず,樹脂劣化度定量などへも展開している3)。
1) T. Jiang et al., Nature 2020, 577, 216.
2) Y. Hibi et al., Chem. Sci. 2023, 14, 5619.
3) Y. Hibi et al., Polym. Degrad. Stab. 2025, 232, 111128.
日比裕理 物質・材料研究機構