日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >理論化学・情報化学・計算化学 >σ電子系における量子干渉現象

σ電子系における量子干渉現象

Quantum Interference Phenomena in σ-Electron Systems

1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)の孤立電子対の間の相互作用に関する興味に端を発して,いわゆるthrough-spaceおよびthrough-bondという相互作用の区別が確立したのは1968年のことである1)。その後,1974年にDABCOと同じσ骨格でドナー部位とアクセプター部位を隔てたAviram-Ratner型の分子ダイオード2)が提案されたのをきっかけとして,分子エレクトロニクスの分野が勃興した。時は流れて,2018年にDABCOのケイ素類縁体において3),そして2021年にはDABCO自体において4),興味深い電子輸送特性が観測された。それは,これらの分子を透過する電子の量子的な位相の破壊的干渉効果により,電子の透過率が極めて低くなるという特性であり,量子干渉現象と呼ばれる。量子干渉現象はπ電子系ではよく知られていたが,DABCOなどにおける実験的報告がきっかけとなってσ電子系における量子干渉現象が注目を集めることとなった。π電子系の量子干渉現象の予測においてはヒュッケル法が有効であるため,それを応用した様々な解釈が提案されてきた。σ電子系においてもLadder Cモデルと呼ばれるtight-bindingモデルを活用した量子干渉現象の解釈が提出されつつある5)。また,through-spaceおよびthrough-bondの観点から量子干渉現象を理解することも可能であり6),今後この現象の理解の深化やデバイス応用などが期待される。

chem78-05-01.jpg


1) R. Hoffmann et al., J. Am. Chem. Soc. 1968, 90, 1499.
2) A. Aviram et al., Chem. Phys. Lett. 1974, 29, 277.
3) M. H. Garner et al., Nature 2018, 558, 415.
4) B. Zhang et al., Chem. Sci. 2021, 12, 10299.
5) N. Cao et al., J. Chem. Phys. 2023, 158, 124305.
6) Y. Tsuji et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 32506.

辻 雄太  九州大学大学院総合理工学研究院