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結晶欠陥ができても活性が低下しない光触媒材料の設計指針

Strategy for the Design of Defect-Tolerant Photocatalysts

太陽光を用いて水から水素を製造できる光触媒が注目されている。光触媒には,従来TiO2やSrTiO3などの金属酸化物が用いられてきた。しかし,これに窒素や塩素,硫黄などのアニオンを導入すると紫外光だけではなく,可視光にも応答することが実証されてから,様々なアニオンを導入した可視光型光触媒が開発されてきた1)。しかし,これらのアニオンは揮発性が高いため,合成過程や反応中にアニオン空孔が形成されやすい。そして,この空孔は深い電子トラップ準位を形成し,光励起電子を強く束縛してその反応性を低下させる。そのため,これらの材料は水分解に適したバンド構造を持つにもかかわらず,水素生成活性が低い傾向にあることが問題であった。
このような背景の下,筆者らは新しい可視光型光触媒として注目されているBi4NbO8Clは,時間分解分光計測の結果,塩素や酸素が抜けても深い電子トラップ準位が形成されないことを発見した2)。Bi4NbO8Clは,図1のように[Bi2O2]シートが塩素を挟んで積層した構造をもち,伝導帯は層間で混成したBi-6p軌道の結合性軌道によって構成されている。アニオンは伝導帯の形成に寄与せず,仮にBi-Bi結合が切断されてもBi-6p軌道は伝導帯底よりも高い位置にあるため,ギャップ内に深い欠陥準位が形成されにくい。その結果,光励起電子の高い反応性が維持され,高い水素生成活性を示すことを明らかにした。
つまり,2次元材料のスタック構造を制御すれば層間の軌道重なりを利用した結合性伝導帯の設計が可能となり,欠陥によるトラップ準位の形成を抑える「欠陥耐性」の実現が可能となる。本研究が提案する「層間軌道重なりを活用した伝導帯設計」は,従来の結晶構造制御では困難だった欠陥制御に新たな道を示すものであり,太陽電池や光検出器など,ほかの光エネルギー変換デバイスの高効率化にも大きく貢献することが期待される。

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図1 Bi4NbO8Clの構造とアニオン空孔が形成されても深い電子トラップ準位が形成されない結合性軌道による伝導帯の設計概念

1) T. Hisatomi et al., Front. Sci. 2024, 2, 1411644.
2) A. Yamakata et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2025, 64, e20241962.

山方 啓  岡山大学異分野基礎科学研究所