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二酸化炭素排出削減に向けた化学産業の電化 ~マイクロ波加熱技術の産業利用~

Electrification of Chemical Industry for Reducing Carbon Dioxide Emission ~Industrial Utilization of Microwave Heating Technology~

排出炭酸ガスの削減は産業部門にとっても喫緊の課題である。日本の化学産業は,産業部門全体の排出炭酸ガス量の約20%を排出していることから,排出炭酸ガスを削減する化学プロセス技術が望まれている。電気加熱技術を化学反応の加熱に適用する「電化法」は,排出炭酸ガスを大幅に削減するポテンシャルを有しており,脱炭素型の化学技術として最近注目を集めている。本稿では,特にユニークな特徴を持つマイクロ波加熱1)による化学プラント向けの反応技術について紹介する。
化学プラントに適用可能な電気加熱法としては,誘導加熱法,抵抗加熱法,マイクロ波加熱法の3種類がある2, 3)。誘導加熱法と抵抗加熱法は,反応器の外壁を電気により加熱する間接的加熱法であるのに対し,マイクロ波加熱法は電気エネルギーをマイクロ波に変換し,反応場に直接照射することで反応物や触媒を加熱する直接的な加熱法である。マイクロ波エネルギーを反応場に直接与えるため,加熱速度が速いこと,投入エネルギー量が少なくて済むこと,選択的に加熱することが可能であり,誘導加熱や抵抗加熱にはないユニークな特徴を有している(図1)。
化学産業においては,エチレンやプロピレン等の基礎化学品を製造するナフサクラッカーがエネルギー多消費型の化学プロセスとして知られており,クラッカーからの排出炭酸ガスの削減が強く望まれている。最近,国内でもマイクロ波加熱法による電化型ナフサ分解技術の研究開発プロジェクトが始まっている4)。スケールアップや,安価な再生可能エネルギー由来電力の普及など解決すべき課題もあるが,技術の早期確立・社会実装が期待される。

chem78-06-03.jpg図1 マイクロ波加熱による化学反応


1) 岸本史直,矢部 彰,和田雄二,桑原なぎさ,樫村京一郎,岸川豊昭,ペトロテック 2024, 47, 438.
2) マイクロ波化学株式会社,https://mwcc.jp(2025年5月現在).
3) 山本ビニター株式会社,https://www.vinita.co.jp(2025年5月現在).
4) https://www.nedo.go.jp/koubo/DA3_100313.html(2025年5月現在).
程島真哉  千代田化工建設(株)研究開発センター