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アニオン交換膜(AEM)型電解装置を用いるピリジン類の水素化

Hydrogenation of Pyridines in an Anion Exchange Membrane(AEM)Electrolyzer

化学産業はエネルギー消費産業の1つであり,CO2排出量も多いことから,反応プロセスの省エネルギー化とカーボンニュートラル化が急務である1)。このような観点から,化成品の製造プロセスを電化する流れが生まれており,有機電解合成が注目されている2)
このような背景の下,医薬品やファインケミカルの構造要素として不可欠な環状アミン類を持続可能に合成する手法として,アニオン交換膜(AEM)型電解セルを用いた電極触媒的水素化反応が開発された3)。特にピリジンを対象とし,炭素担持ロジウム触媒(Rh/KB)を用いることで,常温・常圧下において高い電流効率(最大99%)と高収率(98%)でピペリジンへの変換を実現している。In situ XAFS測定により,電解条件下でRh表面の酸化種が還元され,触媒活性なRh(0)の生成が確認され,第一原理計算からは生成物の脱離が律速段階であり,RhがPtに比べて低い脱離エネルギーを示すことが明らかとなった。さらに本手法は,キノリン,ピラジン,ピロールなどほかの含窒素芳香族化合物にも適用可能であり,ピラジンからピペラジン,ピロールからピロリジンへの完全な電気化学的水素化も初めて報告された。基質6.3 g(80 mmol)を用いた電解反応においても高い選択性と再現性を保持しており,本手法は温和な条件下で高効率かつスケーラブルに環状アミンを製造できる革新的な電解合成技術であることが示された。

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1) International Energy Agency(IEA), https://www.iea.org/reports/industry(2025年6月現在).
2) J. L. Barton, Science 2020, 368, 1181.
3) N. Shida et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 30212.

信田尚毅  横浜国立大学大学院工学研究院