学位取得後20年余り経過した今,留学に至った経緯,在学中ならびに卒業後の思いやキャリア,留学経験がその後にもたらしたことなどについて,これまでを振り返った。筆者は日本で大学の学部卒業後に渡米し,有機化学を専門とするPh.D.コースの学生としてMITの大学院で過ごすことになったが,化学についての学びはもちろん,それ以外にも多くの有益な経験をする期間となった。特に,日本国外に一定期間住むことで日本を外から見ることができたのはその後の物事に対する考え方に影響を与えており,また,日本での学生生活では出会えなかったような多くの人たちと出会うことができたのも財産となっている。当時は漠然とながら,Ph.D.取得後はそのままアメリカに残ってキャリアを積むつもりでいたが,縁あって帰国し,日本のアカデミアで研究者としてスタートすることになった。以来,場所を移りながらも日本国内で研究・教育活動を行っているが,厳しくも充実したMITでの大学院生としての経験は,その後の自分を支え続けている。今の若い世代の人たちも,ぜひ一歩踏み出して世界に羽ばたいてほしいと思う。
以上の内容について,2025年3月に名古屋大学で講演する機会をいただき,産学両方の参加者から様々な貴重な意見を頂戴した。
新谷 亮 大阪大学大学院基礎工学研究科