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なぜ外国学位が注目されるのか: 大学教員のキャリアパスに見る影響

Foreign Degrees and Academic Career Trajectories

大学の国際化が叫ばれて久しい中,「外国学位を持つ日本人教員」は増えていると思われがちだ。だが,文部科学省が行った2016年度の調査によると,その割合はわずか2.81%であり2001年度の推定値(約7%)から大きく下回る。2025年3月に名古屋大学にて海外博士に関して講演する機会をいただいた際には,2007年度から2016年度の学校教員統計調査の分析を基に,その実態と背景を発表した。
研究結果1)からは,外国学位を持つ教員には人文社会系の女性教授が多く,若手・男性の少なさが示された。また大学執行部職に占める割合が大きいなど,国内学位を持つ教員に比べて,より高い職階に就く傾向が認められた。留学によって,より広く深い視点や人的ネットワーク(いわゆる人的資本や社会資本)を得ることや,「外国学位」というシグナリング効果(外国学位が個人の能力を顕示するシグナルとして機能する)で説明できるだろう。もっとも,留学する人がそもそも優秀であるという選抜バイアスの存在,つまり留学効果を過剰に推計している可能性も否定できない。しかし選抜バイアスを考慮した一部の先行研究2)からは,短期留学とはいえ,留学経験それ自体の効果も確認されている。よってメカニズムの解明には至っていないが,外国学位の取得には一定程度の効果があると考えられる。
近年は円安や外国大学の学費高騰,不安定な国際情勢,そして国内大学院の充実により,学位留学への誘因が低まりつつある。しかし,学術的・個人的な成長の観点のみならず,アカデミックキャリアへの効果の点からも,「境界を越えること」の価値がいま再び見直されるべき時期にきている。

chem78-07-03.jpg講演でのまとめのスライド


1) M. Kato, International Journal of Educational Development 2023, 99, 102754.
2) M. Kato, K. Suzuki, Journal of Studies in International Education 2018, 23(4), 411.

加藤真紀  名古屋大学高等教育研究センター