筆者は,2013年にテキサス大学オースティン校化学科に入学し,2019年に学位を取得した。大学院修士課程在籍中,指導教員の先生方から「海外大学院進学」という選択肢を教えていただいたことが,留学を考えるきっかけとなった。日本から海外大学院への進学者は少数派であり,ほかの人とは異なる貴重な経験ができると感じ,挑戦を決意した。修士課程までの専門は有機合成化学であったが,新しい分野へ挑戦すべく,天然物生合成を研究対象とする研究室を志望した。テキサス大学Hung-wen Liu教授研究室では非ヘム鉄酵素ヒオスチアミンヒドロキシラーゼの触媒機構解析に加えてリンコマイシンやアルボマイシンなどの含硫糖天然物生合成経路解明を行った。世界各国から集まった情熱ある仲間とともに,実験・解析・論文執筆に一貫して集中できた日々は,研究者としての基盤を築いた貴重な時間であった。大学院留学の経験は,専門知識の習得だけでなく,海外の研究者とのネットワーク構築や自身のキャリア形成にも大いに役立っているのではないかと思う。以上の内容について,名古屋大学で講演する機会をいただいた。
牛丸理一郎 九州大学高等研究院