3月に名古屋大学で開催された,海外で学位を取得した研究者による講演会にて,私も登壇の機会をいただいた。筆者はドイツ・マックスプランク石炭化学研究所で,ベンジャミン・リスト教授の下,博士号を取得した。
学部時代から「海外で研究してみたい」という思いが強く,様々な情報を収集した結果,リスト研究室に博士課程の学生として応募することを決めた。実際に進学してみて特に印象的だったのは,日本の大学院とのシステムの違いである。中でも,テクニシャンや専門部局の存在は非常に大きく,研究の円滑な遂行に大きく貢献していた。またメリハリのある働き方も印象的だった。マックスプランク財団による奨学金制度のおかげで,生活費を賄いながら研究に専念できる環境も整っていた。博士号取得後,北海道大学化学反応創成研究拠点にリスト教授が海外PIとして参加することとなり,そのご縁で筆者も北海道大学にて特任助教として研究を行うことになった。講演では博士課程で取り組んだ研究,特にキラルブレンステッド酸触媒を用いたアルケンの不斉ヒドロ官能基化反応1)について簡単に紹介した。これらの研究は現在の筆者の研究にも繋がっており,具体的には飽和炭化水素化合物の不斉開裂反応の開発2)や,自動合成装置と機械学習を組み合わせた最適化手法の開発3)に取り組んでいる。
1) N. Tsuji, J. L. Kennemur, T. Buyck, S. Lee, S. Prévost, P. S. J. Kaib, D. Bykov, C. Farès, B. List, Science 2018, 359, 1501.
2) R. K. Raut, S. Matsutani, F. Shi, S. Kataoka, M. Poje, B. Mitschke, S. Maeda, N. Tsuji, B. List, Science 2024, 386, 225.
3) N. Tsuji, P. Sidorov, C. D. Zhu, Y. Nagata, T. Gimadiev, A. Varnek, B. List, Angew. Chem., Int. Ed. 2023, e202218659.
辻 信弥 北海道大学化学反応創成研究拠点