多細胞生物は,細胞同士が秩序立って集合し,組織・器官といった階層構造を形成することで,個々の細胞では実現できない信号伝達や自己修復といった高次機能を発現する。このような階層的・協調的な機能発現を人工系で再構築することは,生命の本質的な理解に資するとともに,次世代のソフトマテリアル創出にも直結する重要課題である。筆者らはこれまでに,イオン結合と水素結合を合わせた塩橋相互作用に着目し1),多数のベシクルの集合による人工組織体の構築を実現した。ベシクルにアゾベンゼン化合物や磁性ナノ粒子を導入することで,光や磁場に応答して組織全体が協調的に収縮・移動する動的挙動も示された。さらに,切り離した組織同士を再び接触させることで元の構造に戻る自己修復性や,ベシクルに酵素反応系を組み込むことで化学信号の伝播機能も実現した2)。こうした多機能性を,センチメートルスケールの繊維状構造として成形する技術を開発し,複数の機能モジュールを直列に配置することにも成功した3)。
本成果は,単一分子・単一ベシクルの機能を超えて,動的かつ階層的に統合された自立型人工組織を創出する新たな指針を示すものである。環境刺激に応答しながら構造や機能を可逆的に変化させる本手法は,ソフトロボティクス,組織工学,反応場材料など多様な応用に資する革新的な材料設計戦略となる。
1) R. Mogaki et al., Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 6480.
2) T. Kojima et al., Small 2024, 20, 2311255.
3) T. Kojima et al., Adv. Sci. 2025, 12, 2409066.
伴野太祐 慶應義塾大学理工学部