日本化学会

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ギ酸生成錯体触媒の反応機構

Reaction Mechanism of Molecular Catalysts for Formate Formation

今年の夏も記録的な猛暑となり,地球温暖化対策の重要性が改めて浮き彫りとなっている。温暖化の主要因とされる二酸化炭素(CO2)の削減と有用化合物への変換技術の確立は,まさに喫緊の課題である。CO2の還元反応では多様な生成物が得られるが,中でも2電子還元による一酸化炭素(CO)またはギ酸(HCOOH)の生成は比較的制御が可能とされ,有望な手法として注目されている。特に液体のギ酸は高いエネルギー密度を有し水素キャリアとしても期待されている。
 分子性触媒によるギ酸(イオン)生成については,金属ヒドリド錯体(M-H)を中間体とする経路が多くの系で主要な機構とされる。一方,CO2の金属中心(M)への配位とプロトン化を経てカルボン酸錯体(M-COOH)を形成し,続くM-C結合の開裂によりギ酸を生成する経路も提唱されている1)。前者の機構では,M-H錯体に対するCO2挿入反応を経てフォルメート錯体(M-OCOH)が形成されるという反応経路が漠然と信じられてきた。
 このような背景の下,水/有機溶媒混合系でのロジウム錯体触媒によるCO2の光化学的な変換が報告され,83%の高選択性でギ酸生成が達成された2)。この反応機構は主に量子化学計算により解析され,M-H錯体へのCO2挿入ではなくCO2への直接的なヒドリド移動によるギ酸生成が示され2),別のニッケル錯体触媒でも同様な反応機構が提唱された3)。フォルメート錯体を与える反応系においても直接的ヒドリド移動が関与する可能性が示されており,今後の実験的な検証が期待される。

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    1)    H. Ishida, K. Tanaka, T. Tanaka, Organometallics 1987, 6, 181.
    2)    D. Lee, K. Yamauchi, K. Sakai, J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 31597.
    3)    C. Liao, K. Yamauchi, K. Sakai, ACS Catal. 2024, 14, 11131.

山内幸正  九州大学高等研究院