日本化学会

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環境変化を発光色で検出する外部刺激応答型デバイス

A Stimuli-Responsive Device for Detecting Environmental Changes via Emission Color Variation

近年,分子レベルの秩序構造に基づき,光・熱・圧力などの外部刺激に応じて発光や発色変化,相転移を示す有機結晶が,スマートマテリアルとして注目を集めている。筆者らは,有機結晶に見られる刺激応答性に着想を得て,デバイス応用を目指して研究を進めている。特に,機械的耐久性および環境安定性に優れた無機ELの一種である分散型ELとの組み合わせによるデバイス実装に取り組んでいる1)。分散型ELは,微量のCuやMnをZnSなどの無機粒子にドープし,電界印加によって面発光を示すデバイスである。
これまでに,分散型ELをセルロースナノファイバー製フィルム上に形成し,網飾り(切り紙)加工を施すことで,フィルムの伸張に応じて発光の照射方向を動的に制御できることを明らかにした2)。これらの優れた安定性を活かし,透明電極層と発光層間に,フルオラン系色素およびジアリールスルホン系顕色剤をカプセル化したサーモクロミック層を導入し,温度変化に伴う発光色制御を実証した3)。最近では,周波数に応じて発光色が緑から青へと変化するZnS:Cu蛍光体と,ローダミンをはじめとする複数の有機蛍光色素を発光層内にて共存させ,周波数によってエネルギー移動効率を制御し,明瞭な発光色変調を達成した(図右上)4)
これらの研究は,有機結晶分野で蓄積されてきた「刺激に応じて材料の光物性を制御する」という概念をデバイス実装したものであり,刺激応答性光機能材料の応用先の1つとして期待される。


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1)    常安翔太ほか,日本印刷学会誌 2022, 59, 131.
2)    K. Uetani et al., NPG Asia Mater. 2021, 13, 62.
3)    S. Tsuneyasu et al., J. Soc. Inf. Display 2021, 29, 207.
4)    S. Abe et al., J. Soc. Inf. Display 2025, 33, 353.

常安翔太  東京工芸大学工学部工学科