日本化学会

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分子内結合開裂による 8の字型分子の合成

Inner-Bond-Cleavage Approach to Figure-Eight Macrocycles

非平面π共役分子は,その形状に基づく魅力的な光・電子機能を示すことから,様々な分野で特性を活かした材料開発が進められている。これらの応用の基盤として,フラーレンやコラニュレンのような大量合成が可能なビルディングブロックは不可欠である。
従来の有機合成では,標的分子の構造を逐次的な結合形成によって組み上げる。しかし,結合形成のみでは構築が困難な骨格もある。その一例が8の字型π共役分子である。8の字型とは,その名のとおりで,数字の「8」のようにねじれたキラルな環状構造である。このようにねじれた構造を結合形成によって合成する場合,望まない多量化や分子内環化が併発し,これが総収率の低下や操作の煩雑化の原因となる。加えて,8の字型分子の触媒的不斉合成は挑戦的であり,わずか数例しか報告がない。
筆者らは,「平面π共役分子の骨格内部の結合を開裂する」という従来とは真逆のアプローチによって,上述の課題が一挙に解決できることを実証した。具体的には,市販の多環芳香族炭化水素の骨格内部の二重結合を酸化的に開裂することで,8の字型分子を短工程かつ大スケール,高エナンチオ選択的に合成すること成功した1)。さらに,この反応をナノグラフェン分子やカーボンナノチューブの部分構造に適用すれば,従来の結合形成戦略では構築できない複雑な骨格の分子も創出できる1, 2)。また,筆者らは生成物の誘導化によって,円偏光発光有機発光ダイオードの発光体として有望な分子も創出している1, 3)

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    1)    R. Yoshina et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 29383.
    2)    H. Isobe et al., Org. Lett. 2025, 27, 8304.
    3)    E. Nishimoto et al., Chem. Eur. J. 2025, 31, e202404194.

福井識人  名古屋大学大学院工学研究科