ホスト-ゲスト化学は,空孔サイズの拡大とともに,小分子から複数分子,さらにはタンパク質やナノ粒子へと対象を広げ,新たな化学を開拓してきた1)。しかし,創薬化学で重要性を増す「中分子」(分子量500~数千)を汎用的に包接できるホストは,依然として空白領域として残されている。単に空孔を大きくするだけでは不十分で,ゲストの安定な包接には強力な相互作用部位が不可欠であるにもかかわらず,既存の巨大ホストの多くは骨格を提供するに過ぎなかった。
そこで筆者らは,小分子包接に実績のあるM6L4かご型錯体2)を基に,その構成要素を変えずに空孔のみを拡張する戦略を着想した。特定の環状分子を鋳型とする固相自己集合と溶液相反応の組み合わせにより,元錯体(約450 Å3)の3倍以上の容積(約1500 Å3)をもつM9L6錯体(拡張かご型錯体)の合成に成功した3)。
この拡張かご型錯体は,多様な中分子を水中で自発的に包接し,その会合状態や配座の制御を可能にした。例えば,有機マクロサイクルに特定の配座を誘起し第二のゲスト分子を迎え入れる階層的な分子認識空間の形成も実現した4)。さらに,この拡張かご型錯体を「第2世代結晶スポンジ法」に応用することで,強力な中分子構造解析法となることも示した5)。この特異な空間は,中分子による新たな現象発見の舞台となるだろう。
    1)    H. Takezawa et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 2351.
    2)    M. Fujita et al., Nature 1995, 378, 469.
    3)    K. Iizuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 32311.
    4)    K. Iizuka et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2025, 64, e202422143.
    5)    W. He et al., Nat. Chem. 2025, 17, 653.
竹澤浩気 東京大学大学院工学系研究科