有機電解合成とは,電気化学を組み合わせた有機合成の手法であり,電極表面で発生する特異な反応種・活性種を介在させた分子変換を可能とする1)。有機電解合成における重要なパラメータの1つに電極材料が挙げられる。絶縁体であるダイヤモンドにホウ素をドープして導電性を付与したものがダイヤモンド電極である。ダイヤモンド電極は汎用的な炭素電極と比較して,(a)広い電位窓を示す,(b)活性ラジカル種を効率的に発生・安定化させる,(c)物理的・化学的に安定である,といった特徴をもち2),特に(b)の特徴は有機電解合成において魅力的である。
筆者らは,独自に作製したダイヤモンド電極を利用した有機電解合成に関する研究を展開している。最近では,溶存酸素の電解還元によって生成する活性酸素種がダイヤモンド電極上で安定化され,後続の化学反応に利用できることを見いだした。フェニルアセトン類を基質とした場合,電解発生したスーパーオキシドアニオンが介在し,アシル-炭素結合の開裂を経た酸化反応が進行し,安息香酸誘導体が得られた3)。また,クメンを基質とした場合,電解発生したヒドロペルオキシドアニオンが介在し,クメンヒドロペルオキシドを経由して,バッチセルを用いた電解ではアセトフェノン4)が,フローセルを用いた電解ではα-クミルアルコール5)が主生成物として得られた。
今後は,ダイヤモンド電極上で電解発生する活性種を利用したユニークな分子変換が見いだされることが期待される。
  1)    P. S. Baran et al., Chem. Rev. 2017, 117, 13230.
    2)    N. Yang et al., Chem. Soc. Rev. 2019, 48, 157.
    3)    T. Saitoh et al., ChemElectroChem 2019, 6, 4194.
    4)    T. Yamamoto et al., Beistein J. Org. Chem. 2022, 18, 1154.
    5)    T. Yamamoto et al., Curr. Res. Green Sustainable Chem. 2023, 7, 100378.
山本崇史  慶應義塾大学理工学部