日本化学会

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ウラン溶媒抽出の界面

Interface in Uranium Solvent Extraction

溶媒抽出は金属イオンの分離・精製技術として工業的にも実験室でも古くから広く利用されてきた。特に原子力分野では使用済み核燃料からのウランやプルトニウムの分離・回収が代表例である。この分離プロセスは経験則や現象論に基づき技術的に成熟してはいるものの,基礎化学的な反応メカニズムには未解明な点が多い。例えば,ウラニルイオン(UO22+)はトリブチルリン酸(TBP)やジエチルヘキシルリン酸(HDEHP)などの両親媒性の抽出剤と錯生成し有機相へ移行するが,水相と有機相の界面でどのような素反応が起こり,相間移動が進行しているのか明らかになっていない。
 筆者らはこれまでに2種類のウラン溶媒抽出系について,振動和周波発生(VSFG)分光法を用い,界面領域(約1 nm厚)の分子構造を調べた。その結果,TBP抽出剤系1)では界面で錯体を形成せず,ウラニルイオンが有機相側へ移動した後にTBPが配位する反応モデルを示した。一方,HDEHP系2)では,ウランの特異な界面錯体の形成が観察され(図中立体模型参照),その構造は通常の有機相中の抽出錯体と異なり,ウラニルイオンに有機相側から脱プロトン化HDEHPが,水相側から水分子が配位したものであった。この界面錯体が相間移動の中間状態である新たな反応モデルも提案した。界面で錯生成が生じる場合,界面反応が抽出効率に大きく影響すると考えられる。
 界面反応はしばしば溶媒抽出の律速となる。したがって,界面における分子レベルの知見を活用することで,界面反応の制御・最適化による抽出効率,特に抽出速度の向上が期待され,より優れた分離プロセスの開発につながる。

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    1)    R. Kusaka et al., Phys. Chem. Chem. Phys. 2018, 20, 29588.
    2)    R. Kusaka et al., J. Phys. Chem. Lett. 2022, 13, 7065.

日下良二  日本原子力研究開発機構