日本化学会

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新しい有機合成反応の開発

Development of New Reactions

有機合成化学の最たる強みは,有機分子を自由自在に創ることができる点にある。その中でも「新反応」の開発は,新しい分子変換手法を提供し,新分子の創造を可能にする基礎研究として重要である。クロスカップリングやオレフィンメタセシスなどに代表されるように,新反応の開発を起点として,物質科学は劇的発展を遂げてきたといえる。本稿では,「新しい有機合成反応の開発」と題して,最近筆者らが開発した2つの反応について紹介する。1つは,光エネルギーとシリルボラン反応剤を利用した「ピリジンの環縮小を伴う脱芳香族的骨格転位反応1)」であり,ピロリジンをはじめとする様々な含窒素化合物をピリジンから簡便に合成することができる。2-シリル-1,2-ジヒドロピリジン中間体が光により1,2-シリル転位を起こす素過程が鍵である。もう1つは,近年筆者らが開拓している「分子内フラストレイテッドルイスペア(FLPs)の光反応性」を利用した「光/熱応答性FLPによるエチレンのオンデマンド固定化2)」である。本系は,エチレンをはじめとする様々なアルケンを光により捕捉し,熱により放出することに成功した初の有機分子システムであり,エチレンの捕捉・分離・貯蔵に向けた1つの化学的アプローチを示した。また,反応機構解析に基づいた合成化学的利用例として,cis-シクロオクテンを熱力学的に不安定なtrans-シクロオクテンへと,非平衡反応として選択的に異性化させることにも成功した。"少しの改良を加えて効率を向上させたり,他者の見つけた反応を応用しただけの〇〇の新合成法などは,新反応の部類には入らない。本当の意味のNew Reactionとは,何らかの新しい概念が織り込まれた反応である3)。"偉大なる先人たちの言葉を胸に,「新反応」の開発を目指して学生と日々実験研究に励んでいる。

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    1)    R. Ueno, S. Hirano, J. Takaya, Nat. Commun. 2025, 16, 2426.
    2)    T. Yanagi, J. Takaya, J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 15740.
    3)    K. Narasaka, 有機合成化学協会誌 200563,421.

鷹谷 絢  大阪大学大学院基礎工学研究科