12族元素のZnを中心金属とする二価錯体は,d10電子配置とその安定なd軌道エネルギー準位により可視光吸収性に乏しく,一般に無色化合物を与える。そのため,可視光応答性を持たせるには,従来,色素配位子の導入が必要であった。
筆者らは,Znの電子で占有されたd軌道ではなく,空のp軌道に着目し,Zn二原子間に低エネルギーなσ結合性の空軌道を形成させることにより,可視光を吸収し黄色を呈するZn二核錯体を開発した(図)1, 2)。この可視光吸収は,Zn二原子間距離(dZn-Zn)を短く制御する分子設計により達成されるものであり,dZn-Znが長いZn二核錯体では空軌道相互作用が生じず,可視光吸収を示さない。さらに,中心金属を同族のCdに置換した場合にも,同様の原理に基づく可視光吸収が可能であることを示しており3),これらの結果は,色素配位子に依存しない12族金属錯体の可視光応答性発現に向けた,新たな分子設計指針を提示するものである。
12族金属錯体の可視光機能開拓は依然として萌芽的段階にあるが,安価で低毒性なZnを基盤とした可視光機能性材料の創出は,持続可能な開発に貢献するものと期待される。
1) Y. Wada et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2023, 62, e202310571.
2) Y. Wada et al., ChemPlusChem 2024, 89 e202400306.
3) Y. Wada et al., Eur. J. Inorg. Chem. 2025, 28, e202400666.
和田啓幹 東京大学生産技術研究所