カチオン交換膜とアニオン交換膜を貼り合わせて作るバイポーラー膜(BPM)は,水をH+とOH-に解離して供給できる膜である。系内部に明確なpH勾配を形成し,半反応ごとに異なる条件で最適化された環境も実現できるため,燃料電池,CO2回収など,次世代の電気化学エネルギー変換技術において近年急速に注目を集めている。しかし,このBPMのエネルギー変換技術応用には,水解離反応に必要な過電圧を下げることが大きな課題とされてきた。こうした中で,最近カチオン交換膜とアニオン交換膜の間に適切な触媒を担持させることで,その過電圧を大きく下げることができることが報告され1),BPMに関する研究が一気に発展し始めている。
筆者らは,こうしたBPMの触媒として酸化チタンナノシートを高密度に敷き詰めた単層膜を界面に挿入することで,水の解離を劇的に促進できることを発見した(図1)2)。ナノシートBPMは,触媒活性点の数こそ少ないが,膜内部にプロトン濃度差に由来する極めて強い電場を生成していると予想され,高い重量規格化電流密度を示した。こうしたナノシートBPMを水解離触媒として有効に活用するためには,自発集積転写法を用いた稠密配列膜3)の活用が非常に重要であり,ナノシート間の間隙の抑制により性能が大きく向上することが確認できている。今後,ナノシート自体の設計を通じて,さらなる高機能BPMの開発が期待される。
1) S. Z. Oener et al., Science 2020, 369, 1099.
2) E. Yamamoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 1427.
3) S. Yue et al., Small 2024, 20, 2403915.
山本瑛祐 名古屋大学未来材料・システム研究所