近年,機械刺激に応答する発光材料が注目されており,応力センサーや光記録,セキュリティーデバイスなどへの応用が期待されている。特に,相互作用や配座の変化で発光色が変わる「メカノクロミック発光材料」1)と,極性結晶の破壊により瞬間的に発光する「トリボルミネッセンス材料」2)がよく知られている。前者は色変化が保持され記録性を示す一方,後者は瞬間的発光によりリアルタイムでの応力検知が可能だが,純粋な有機分子では設計が難しい。
筆者らは,リアルタイムで力学的情報を可視化する新たな材料を開発するため,フォトクロミック分子であるジアリールエテンに蛍光分子を連結した誘導体を合成し,機械刺激応答性の動的発光を実現した3)。図に示す分子は,紫外光照射で無色の開環体から紫色の閉環体へ,可視光照射で開環体に戻る可逆的なフォトクロミズムを示した。この結晶を紫外光下ですり潰すと瞬間的に青緑色に発光し,約1秒で消光した。この現象は,機械刺激によってピレン間相互作用がより強くなった状態からの発光が,同時に励起光で生成した閉環体へのエネルギー移動で速やかに消光するという機構で説明できる。さらに,消光までにかかる時間は発光種や閉環体の生成量に依存し,機械刺激強度や励起光条件によって調整できるため,動的な情報暗号化などへの応用も可能である。今後は発光色の多様化や応力の定量化が期待される。
1)S. Ito, CrystEngComm 2022, 24, 1112.
2)Z. Li et al., J. Phys. Chem. Lett. 2022, 13, 5605.
3)R. Nishimura et al., Adv. Optical Mater. 2024, 12, 2400143.
西村 涼 立教大学理学部化学科