金属酸化物の結晶内に格子酸素欠陥(VO)を導入することで,物理化学的特性や表面特性を調整し,機能性材料として応用することができる。VOの密度がわずかであれば点欠陥となり,密度が上昇するとWadsley欠陥やせん断面になる。
酸化チタンの物理化学特性は,VOの種類や位置,密度,分布によって多彩に変化する。水素で還元されたTiO2はVOを有し,可視光応答型光触媒になる1)。水素還元の温度を800℃以上にすると,せん断面をもつMagnéli相チタン酸化物(TinO2n-1, 4 ≤n≤9)が生じる。Magnéli相チタン酸化物は,TiO2よりはるかに高い電気伝導性を示し,優れた電極触媒になる2)。さらに還元が進むことで生成するTi3O5やTi2O3は,TiO2やMagnéli相チタン酸化物とはまた異なる特性を示す。
Magnéli相チタン酸化物などの水素還元による合成には高温が必要で粒子成長が起こりやすく,比表面積の大きい微粒子を必要とする触媒などの用途には不向きであった。最近では,高分子など水素以外の還元剤やプラズマを用いる方法など新たな合成法が開発され,微粒子の合成が達成された2)。筆者らも,TiH2を還元剤に用いる微粒子の合成法を開発し,ユニークな固体酸触媒となることを見いだした3)。今後は,微粒子が必要とされる用途でのMagnéli相チタン酸化物などの応用開発がさらに進むと予想している。
酸化チタン以外にもVOを有する金属酸化物は多く,自在な合成と応用により新規特性の発見が期待される。
1)X. Chen et al., Chem. Soc. Rev. 2015, 44, 1861.
2)S. A. Ekanayake et al., Chem. Sci. 2025, 16, 2980.
3)M. Nagao et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2020, 12, 2539.
大友亮一 北海道大学大学院地球環境科学研究院