10月に大阪大学で開催された企業経験を持つアカデミアの研究者による講演会において,お話しする機会をいただいた。筆者は,アステラス製薬で7年間プロセス開発に従事した後にアカデミアに転身し,反応開発を中心とした研究に取り組んでいる。
企業での工業化研究は,反応スケールの大きさはもちろんのこと,臨床スケジュール,製造設備の確保,安定供給や経済性の要求を満たせる原料の選定,品質管理など,多岐にわたる要素のバランスを取りながら多くのメンバーと協力して進める必要があり,どのテーマも壮大なプロジェクトといえるものである。特に,年々複雑化する化学構造と薬価とのバランスを取れる製造法の開発の難しさや,これに対して安価で使いやすい試薬の開発がもたらす恩恵を痛感してきた。
このような観点から現在は,これまで難しかった官能基の導入を可能にするような試薬を,医薬品探索から工業化まで幅広くカバーできる安価で使いやすい形で開発できないかと考えて研究を行っている。講演では,プロセス化学の基本やアカデミアの研究との違いに加えて,ジスルフィドのモジュラー合成を可能にする試薬の開発と,これを用いた反応の開拓による非対称ジスルフィド合成の基盤の構築についても紹介した。
金本和也 東京科学大学総合研究院生体材料工学研究所