生体内のタンパク質の機能は,翻訳後修飾,タンパク質間相互作用などによって多様な機能的修飾を受けており,これによって生じる個々の分子種はproteoformと定義され,ヒトの体内には20000種類前後の遺伝子から100万種類を超えるproteoformが生成していると試算されている。
筆者はこれまでに,1分子酵素活性計測技術を用いて種々の疾患に関わる酵素の機能異常を明らかにする研究を進めてきた。その過程で,同一酵素群でも,1分子レベルでは多様な活性を示す亜集団に分かれるなど,様々な知見が得られている1, 2)。一例として,近年の研究で,がん細胞で亢進が見られる代謝酵素の1つであるグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH)の1分子酵素活性計測を行ったところ,翻訳後修飾の違いに由来すると思われる異なる活性を有する分子種が,がん,非がん細胞で異なる特徴的なパターンをもって存在していることが見いだされた3)。1分子計測技術を用いて異なるproteoformを個別かつ網羅的に解析することにより,疾患の成り立ちと関わるタンパク質の理解の深化につなげる研究をさらに発展させていきたい。
1) S. Sakamoto et al., Sci. Adv. 2020, 6, aay0888.
2) T. Komatsu et al., ACS Cent. Sci. 2025, 11, 1041.
3) M. Minoda et al., J. Am. Chem. Soc. 2025, 147, 4743.
小松 徹 東京大学大学院薬学系研究科