結晶中にOH-イオンを内包する水酸化物およびO2-/OH-の両イオンを内包する酸水酸化物は,多量のプロトン源を内包する「プロトン機能性材料」の有力候補である。これらは酸化物が水酸化した化合物に相当し,通常は沈殿法や水熱法など水溶液プロセスで合成されることが多い。プロトン伝導体,酸触媒などプロトンが介在する機能性のさらなる開拓には未知の組成・構造をもつ(酸)水酸化物の開発が求められている。
筆者らは,(酸)水酸化物の新規合成法「気相水酸化物化反応」を考案し,新物質探索を進めている。本手法では,特殊な反応装置を用いて500 ℃,80 vol%水蒸気雰囲気中で酸化物前駆体を水酸化物化する。一般に,(酸)水酸化物は300 ℃程度で水分子を放出して熱分解するため,500 ℃以上での高温合成は非常識と見なされ前例がなかった。
網羅的な物質探索の結果,2種類の新物質,[Ba2Ox(OH)y]0.55InO2(="mf-BI")1)およびSr2Ga3O6(OH)(="h-SG")2)を発見した。mf-BIはBa水酸化物層とIn酸化物層が非整合に積層した「ミスフィット(misfit)層状構造」を有し,2次元水酸化物層に由来するプロトン伝導性を示す。一方,h-SGはGaO4ユニットの3次元ネットワークからなり,OH-イオンは結晶中Srイオン近傍に偏在している。mf-BIとh-SGは強い水素結合によって熱的に極めて安定であり,それぞれ約700 ℃, 850 ℃まで結晶中にOH-イオンを保持できる。この特異的に高い熱耐久性により,既知材料では不可能だった中高温でのプロトン機能性開拓について進展が期待できる。
1) K. Arai et al., J. Mater. Chem. A 2025, 13, 21472.
2) Y. Asai et al., Inorg. Chem. 2025, 64, 18294.
本橋輝樹 神奈川大学化学生命学部