電気化学反応(電解反応)を駆動するためには,電極を備えた電気化学セルおよびポテンショスタットなどの電源装置が必要不可欠である。筆者らは,電極をワイヤレス化する「バイポーラ電極」研究を推進する過程で,電源装置を必要としない「無給電電解反応」の着想に至った。その原理は,マイクロ流路に希薄電解液を送液する際に生じる電位差である「流動電位」を用いてバイポーラ電極を駆動する発想に基づく。
Crooksらの先駆的な研究(銀電極の酸化溶出を観測)1)に触発され,筆者らは独自の無給電電解反応デバイスを開発し(図a),電極間の流路に多孔質材料を充填すると大きな流動電位を発生できることを見いだした2)。特に,樹脂モノリス多孔体を充填した場合には4 MPaの圧力で6 Vの流動電位を観測した3)。本デバイスを用いてバイポーラ電極を駆動し,ピロールなどの芳香族モノマーを含む溶液を送液したところ,陽極部位で電解重合が進行し,導電性高分子膜が得られた。すなわち,無給電の電解反応を達成した。
次に,本デバイスを用いて電気化学発光分析に応用した(図b)4)。発光体としてBTD-TPAをバイポーラ電極の陽極部位に固定化し,トリプロピルアミン(TPrA)を含むアセトニトリル/水混合溶媒を送液することにより,BTD-TPAとTPrAの電解酸化反応を経て発光が観測された。この無給電電気化学発光法は,溶液を送液するだけで微量に含まれるアミン類を検出することができる。
1) I. Dumitrescu et al., J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 4687.
2) S. Iwai et al., Commun. Chem. 2022, 5, 66.
3) S. Iwai et al., ChemElectroChem 2025, 12, e202500181.
4) R. Suzuki et al., Nat. Commun. 2025, 16, 8217.
稲木信介 東京科学大学物質理工学院