溶液からの有機結晶生成は,医薬品や機能性材料の作製において重要であり,結晶化過程の理解は多形制御の観点からも不可欠である。近年,凝集状態で発光増強する凝集誘起発光(AIE)分子が注目されている。AIE分子は励起状態での分子内運動の抑制に伴い蛍光増強するため,結晶化過程における分子運動性の変化を可視化するプローブとして利用できる。筆者らは,励起状態における屈曲運動に起因したAIE特性を有するジベンゾイルメタンフッ化ホウ素錯体2amBF2を用い1),分光情報を空間分解して取得可能なハイパースペクトルカメラ(HSC)を適用して2),溶媒蒸発結晶化過程における分子運動と多形発現の相関を調べた。
2amBF2溶液の液滴蒸発に伴う蛍光変化を実時間観測した。無蛍光な単量体からアモルファス様で溶媒を含む液滴状クラスター(LLC)を経た蛍光変化と結晶析出を観測し,二段階核形成機構と整合する結果を得た。さらに,蛍光強度の時間変化から,LLC中における分子運動の凍結する段階において結晶多形に応じた蛍光増強挙動を示すことがわかった。緑色発光を示すG-crystalでは重なり型積層であるため屈曲運動は速やかに抑制されLLC段階で発光増強する。一方,シアン色発光を示すC-crystalでは横ずれ型積層のため分子間の重なりは小さく,局所的な分子運動性を有した状態から堅固な積層構造へと変化していく段階で徐々に蛍光増強するものと考えられる3)。
本研究は,AIE分子は凝集過程での分子運動を可視化する有効な手段となることを示し,有機結晶の多形発現機構の理解に新たな視点を与えるものである。
1) Y. Fujimoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 32529.
2) S. Katsumi et al., J. Phys. Chem. B 2022, 126, 976.
3) Y. Fujimoto et al., Chem. Commun. 2025, 61, 14430.
伊藤冬樹 信州大学学術研究院教育学系