日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >コロイド・界面化学 >バイオミメティック両親媒性高分子による脂質膜の機能制御

バイオミメティック両親媒性高分子による脂質膜の機能制御

Biomimetic Amphiphilic Polymers for Functional Regulation of Lipid Membranes

生体膜は,細胞の内外を隔てる単なる障壁ではなく,物質輸送や情報伝達など多様な生命機能を担う動的な界面である。自然界には,膜の構造や物性を制御することで生理活性を発現するペプチドやタンパク質が存在する。それらが有する膜結合ドメインは,親水性および疎水性のアミノ酸が空間的に偏在した両親媒性α-ヘリックスとして膜界面で機能する。筆者らは,生体膜の柔軟かつ精巧な界面機能に着想を得て,両親媒性合成高分子を用いた膜機能の人工的な制御に取り組んでいる。疎水性側鎖とカチオン性側鎖を併せ持つ両親媒性ポリメタクリレートランダム共重合体は,細菌膜と相互作用し,抗菌活性を示す。ジャイアントベシクルを用いた解析から,本ポリマーが天然の抗菌性ペプチドと同様に膜に細孔様欠陥を形成し,脂質膜の透過性を亢進することを明らかにした1)。一方,同じポリメタクリレート骨格であっても,親疎水性バランスや分子量を適切に調整することで,脂質二分子膜の断片化を誘導し,周縁部を高分子が取り囲むナノディスクを形成できる2)。新たな膜材料であるナノディスクは,アミロイドタンパク質の解析プラットフォームや,薬剤送達キャリア3)としての応用も可能である。合成高分子は,タンパク質やペプチドのような厳密なモノマー配列を持たない。しかし,構造因子を制御し,脂質膜との相互作用を系統的に解析することで,生体膜システムを俯瞰した生理活性分子の合理的な設計指針を与えると期待される。

chem79-09-07.jpg
    1)    M. Tsukamoto et al., Langmuir 2021, 37, 9982.
    2)    K. Yasuhara et al., J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 18657.
    3)    J. Hao et al., RSC Adv. 2024, 14, 6127.

安原主馬  奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学領域