高屈折率と高耐候性を兼ね備えた有機光学材料は,光通信部材・次世代ディスプレイ・光学接着材など次世代の科学技術を下支えする基盤的な素材として,産業界から強く求められている。従来は硫黄やハロゲンなどのヘテロ原子導入により屈折率を向上させてきたが,耐候性とのトレードオフに陥り,長期信頼性の低下という事業化上の重大な課題を抱えていた。当研究室では,現在市場で汎用されるビスフェノールフルオレンに,多環芳香族炭化水素ジベンゾ[g,p]クリセン骨格を融合した新規分子を創製し,その屈折率評価を行った。合成には触媒や助剤を一切使用せず,溶媒のみを駆動力とする独自のクロスカップリングを利用した高生産性スキームを適用し,芳香族炭化水素骨格を効率的に構築した1)。その結果,炭化水素骨格のみでありながら屈折率1.83を達成し,既存のカルド構造の性能を大きく上回った2)。本成果は,原子屈折に依存しない新しい分子設計指針を提示するとともに,高屈折率と高耐候性の両立に向けた学理的示唆を与えるものである。当研究室では,事業化を視野に入れた応用直結型の基礎研究を推進し,屈折率1.90を超える多環芳香族炭化水素材料の創製を目指している。有機分子における屈折率の常識を書き換えたい。
1) N. Yoshida et al., Tetrahedron 2023, 143, 133549.
2) T. Yura et al., Eur. J. Org. Chem. 2025, 28, e202401409.
岩澤哲郎 龍谷大学理工学部応用化学課程