日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >生体機能関連化学・バイオテク >膜のない区画に生じる核酸の秩序構造

膜のない区画に生じる核酸の秩序構造

Emergent Nucleic Acid Order in Membraneless Compartments

液-液相分離(LLPS)は,生体分子を膜のない区画へ集積する機構として,ここ15年ほどで生命科学分野を中心に大きな関心を集めている。LLPSにより形成される液滴は,一般に,流動的な分子濃縮場として議論されることが多い。一方で近年,形成後の液滴内部で生体分子の集合状態が変化し,より高次の超分子構造へと発達する例が,数多く報告されている1)。
筆者らは,このような液滴内部に超分子構造が生じる一例として,四重鎖DNAとオリゴリジンペプチドからなる二成分液滴系を報告した2)。本系では,液滴形成後,液滴界面近傍に凸レンズ状の小区画が現れ,その内部に四重鎖DNAを主な構造単位とする六方柱状相が認められた。すなわち,μmスケールの小区画は,nmスケールの分子配列を反映した階層的な秩序構造だと示されたのである。また,ペプチド成分は小区画形成後も流動性を保ち,秩序構造と流動性が同一空間内に共存していた。これらの結果は,核酸を含む液滴において,分子濃縮,配向秩序,小区画形成が互いに連動して起こり得ることを示している。
核酸は,遺伝情報を担う分子であると同時に,塩基配列や高次構造に応じて多様な集合状態をとる分子でもある。LLPSにより形成される液滴の内部構造を核酸化学と超分子化学の接点として扱うことは2, 3),生命における膜のない区画の理解だけでなく,配向秩序を内包した人工生体分子システムの設計にもつながると期待される。

chem79-10-03.jpg

    1)    a)T. P. Fraccia et al., Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 2021, 56, 101500;
             b)S. Mukherjee et al., Chem. Soc. Rev. 2024, 53, 4976.
    2)    H. Sugai et al., ACS Nano 2026, 20, 10520.
    3)    H. Sugai et al., ACS Omega 2026, 11, 28775.

菅井祥加  東京科学大学総合研究院