リチウムイオン電池用の電解液では,イオン伝導度が最大となる約1 mol/Lの塩濃度が長く標準とされてきた。これを超える濃度では粘度上昇によりイオン輸送が遅くなり,さらに塩の使用量増加によるコスト上昇も避けられないため,高濃度化には大きな意義がないと考えられていた。しかし,濃厚電解液を「塩が多い溶液」ではなく「自由に振る舞える溶媒が乏しい溶液」と捉えることで,従来とは異なる機能が見いだされてきた1)。一般的な1 mol/L電解液では,リチウム塩と溶媒の物質量比はおおむね1:10である。Li+に直接配位する溶媒分子は通常4~5個程度であるため,残りの多くはフリー溶媒として存在する。これに対し,濃厚化(>3 mol/L)することによって塩と溶媒の比をおよそ1:4以下まで高めると,ほぼすべての溶媒分子がイオンとの相互作用に組み込まれ,図1のようにフリー溶媒の活量が著しく低下する2)。この特殊な溶液環境では,電解液成分の反応性だけでなく,電極反応で生じるイオン性・ラジカル性中間体の溶解挙動も大きく変化する。例えば,リチウム空気電池では,塩濃度の上昇に伴ってLiO2ラジカル中間体の溶解が抑えられ,溶液中で進行する溶媒分解反応が低減することが明らかにされた3)。すなわち,濃厚電解液は単なる高粘度溶液ではなく,溶媒活量と反応中間体の安定性を制御する反応場として機能する。今後,濃厚電解液が形成する特異な溶液環境への理解がさらに進むことで,次世代蓄電池の高効率化と長寿命化につながる新たな電解液の開発が期待される。
1) S.-K. Jeong et al., Electrochem. Solid-State Lett. 2003, 6, A13.
2) R. Tatara, Electrochemistry 2024, 92, 101005.
3) R. Tatara et al., J. Phys. Chem. C 2017, 121, 9162.
多々良涼一 横浜国立大学