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「化学の日を国民的イベントに」

日本化学会 前会長・理化学研究所 研究顧問 玉尾皓平

 (化学と工業 Vol.67-9 September 2014「委員長の招待席」より)

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はじめに

Nature 誌は今世紀に入ってから,繰り返し,化学の学問としての重要性と市民権向上に向けての力強いメッセージを発信し続けています1)。特に,2011 世界化学年には,世界規模の課題解決に貢献する化学の役割と恩恵の一般社会への普及・啓発活動の重要性を。我が国では,東日本大震災以来,残念ながら科学技術全般への社会からの信頼は大きく揺らいでいます。

信頼回復に向けて,普及・啓発活動はますますその重要性を増しています。
私たち化学会のこれまでの化学普及・啓発活動は足りなかったのでしょうか? 決してそんなことはありません。化学会では,1970 年代から「化学への招待」などの活動を開始,1983 年からは参加型実験教室「楽しい化学の実験室」2)を,そして1 9 9 3 年からは上記4 団体が「夢・化学-21」委員会を設立し,「夏休み子ども化学実験ショー」,「化学グランプリ・国際化学オリンピック」などを実施してきました。化学会7 支部での各種化学実験講座,化学グランプリ,体験入学,出前授業,化学展などの活動は毎年,年間200 件以上,総参加者数は延べ2 万人を優に超えています。教育・普及部門の「化学だいすきクラブ」の活動も活発です。化学フェスタで行っていた一般向けイベントは,昨年からはサイエンスアゴラに移して実施され,大好評でサイエンスアゴラ賞を受賞しました(写真1)。また,全国の大学や研究所,企業などでも1 日体験入学や工場・研究所見学,出前実験教室など化学や化学産業についての理解増進・啓発活動に取り組んでおられます。これらの多くの人たちの多彩な活動を,もっと効果的なものにできないか,もっとビジブルにできないか,国レベルのイベントにできないか。これが「化学の日」提案の原点なのです。

「化学の日」「化学週間」の制定

「化学の日」の発想は以前からありましたが,諸般の事情で実現できていませんでした。岩澤会長時代からの産学連携の実質化にむけた,日化協などとの交流強化の中 で具体化が急速に進みました。日化協の高橋恭平会長,西出徹雄専務理事及び化学会事務局の川島信之常務理事,瀬田博企画部長らのご尽力にこの場をお借りして感謝したい。2 年前の会長就任時に提案した2 つの具体的提案を紹介します。 「全国一斉オープンキャンパス」:これが「化学の日」と直結する提案です。各大学・研究機関や化学企業で独自に行っているオープンキャンパスやオープンファクトリー を,「化学の日」「化学週間」にできるだけ日程を合わせて一斉に実施いただくことで,国民的イベントとして認知度を高めようとの取組みです。 「『夢・化学-21』の全国統一ブランド化」:「夢・化学-21」キャンペーンの強化策として,そのロゴマークを意匠登録し,上で述べたようなこれまでのすべての化学啓発活 動にロゴマークを付してビジビリティの向上を目指すものです。 いずれもいわば全国区の活動ですが,期間限定型で集中的に盛り上げる企画と,通788 化学と工業 │ Vol.67-9 September 2014 年活動型で全国津々浦々いつでも「夢・化学-21」ロゴマーク付きのイベントが行わ れている,という性格の異なる活動を2 つ準備し,足並みをそろえて最大の効果を狙 おうとする点が特徴です。提案4 団体だけではなく,経済産業省や文部科学省,さら にはマスコミ関係者の賛同も得ており,産学官一体となった初めての本格的な取組み で,化学の啓発活動,市民権獲得にとっての決め手となるものと期待しています。

「化学の日」「化学週間」のイベントは?

「化学の日」を長く定着させるためには, 活動現場に新たなロードを課さないことが 重要と考えます。新たに企画するのではな くて,現在行われているイベントの開催日 をできるだけ「化学の日」「化学週間」の日程に合わせていただくことで,最大の効果を上げようとの考えです。すでに,各支部や産業界に対して,日程調整のご協力をお願いしています。ただ,初年度の今年は,「化学の日@開成学園」「化学週間@東京大 学」「子ども実験ショー@近畿」などのキックオフイベントを企画中です。また,各種一般紙や月刊誌「ニュートン」「化学」「現 代化学」「子供の科学」などへのPR 記事掲載の企画も進んでいます。 提案者としてのイメージは,「化学の日」には,北から南まで各都道府県で少なくとも1件は普及活動が同時進行形で行われること,それらの情報をプレス発表してマスコミに取り上げてもらうこと,望むらくは,オープンファクトリーなどには,総理大臣や関連省庁の大臣クラスにも参加してもらうこと,さらには,写真1のような 安全な参加型化学マジックショーなどをショッピングモールなどでも実施すること,などです。これまでのデパートなどでの「化学展」に加えて,日常生活に溶け込む形でのイベントの普及が重要と思います。「化学の日」の認知度を上げ,国民的イベントとするためにはそれなりの仕掛けと努力が必要なのです。

アメリカ化学会の活動を参考に

米国では,National Mole Foundation が10月23日をMole Dayと決め,モグラ(mole)のキャラクターが北米の各種イベントを盛り上げています。アボガドロ数に忠実に,午前6時2分から活動が開始されるという徹底ぶりです。このことを日化協関係者らに話したら,では,日本では,午後6時2分に乾杯してはじめよう!などと盛り上がったことでした。アメリカ化学会ACSではNational Mole Day を含む週を「National Chemistry Week」に制定しています。ACSでこの活動を永く率いてこられたProf. Bassam Z. Shakhashiri(2012 年ACS 会長)とACS2013 春季年会でお会いしたとき(写 真2)の彼の次の一言が印象的でした。"ショッピングモールで演示実験ができるようになるのに15 年かかりましたよ..."

おわりに:"毎日が「化学の日」"を目指して

「化学の日」「化学週間」が市民権を得て,ショッピングモールで活動ができるようになるまでには,私達のたゆまぬ努力が必要 ですね。会員の皆さんこぞっての参加をお願いする所以です。筆者は,私達の啓発活動の基本は,井上ひさし氏の作風「難しいことをやさしく,やさしいことを深く,深いことを面白く,面白いことを真面目に書く」の精神を実行することにある,と常々伝えてきました。このような努力を続けることで,一般社会での化学,ひいては科学技術全般の理解が高まり,信頼回復にもつながるものと確信するからです。最近書かせていただいた「化学経済」誌の巻頭言に,"毎日が「化学の日」となることを目指して",と表記しました3)。化学が国民生活に溶け込む日が到来することを目指して,「化学の日」缶バッジを胸に,共に努力しようではありませんか。

1) Nature 2001, 411, 399; 2006, 442, 500; 2011, 469,January 6.
2) 若林文高, 化学と工業「委員長の招待席」2013, 66, 922.
3) 玉尾皓平, 化学経済 2014, 7 月号巻頭言「視界」

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写真1 サイエンスアゴラ2013 での日本化学会イベント「カラーマジック!不思議な化学実験!」(科学未来館,2013 年11 月10 日)

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写真2  2 0 1 2 A C S 会長Bassam Z. Shakhashiri の胸に光る「SCIENCE IS FUN」(http://scifun.org/ 参照)の缶バッジ(ニューオーリンズ,2013 年4 月7 日,許可を得て掲載)