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第17回化学遺産認定

公益社団法人日本化学会は、化学と化学技術に関する貴重な歴史資料の保存と利用を推進するため、2008年度より化学遺産委員会を設置し、さまざまな活動を行ってまいりました。「化学遺産認定」は、それら歴史資料の中でも特に貴重なものを認定することにより、文化遺産、産業遺産として次世代に伝え、化学に関する学術と教育の向上および化学工業の発展に資することを目的とするものです。本年は第17回として、ここにご紹介する3件を認定いたしました。

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認定化学遺産 第073号『直火真空蒸留釜(通称:地球釜)』

プラスチックに柔軟性を与える可塑剤は当初セルロイドにおける可塑剤樟脳の代替として欧米で研究が進められていた。
1919(大正八)年に創業した大八化学工業株式会社は、1935年に日本で初めてリン酸エステル系可塑剤(TCP:トリクレジルホスフェート)の生産に成功した。可塑剤の量産化を進めるため、実験器具の三つ口フラスコを参考に金属加工の職人に依頼して、直火炊方式の銅製真空蒸留釜を製作した。容積は380リットル(重量は約300 kg)で3基製作されたうちの1基が残されている。
本蒸留釜は、TCPをはじめフタル酸系可塑剤等の蒸留を要する商品のマルチ生産に使用されていた。熱源は都市ガスのダブルリングバーナー式直火型で、バルブの開け閉めにより熱源の強弱をコントロールしていた。機械式ポンプにより真空状態を生じさせ、当初の真空度は10~20 mmHg程度であった。その後、1949年に装置は銅製からステンレス製へと移行した。現在は蒸留釜の容積の増大とさらなる高真空の実現により、生産効率、製品品質ともに飛躍的に向上している。
ちなみに、「可塑剤」という名称も大八化学工業によるものである。「直火真空蒸留釜(通称:地球釜)」は、わが国における可塑剤の工業生産黎明期の歴史を伝える貴重な装置である。

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化学と工業特集記事

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直火真空蒸留釜(通称:地球釜)
(大八化学工業株式会社
大阪技術開発センター 所蔵)

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現在の真空蒸留缶
(大八化学工業株式会社 福井工場)

認定化学遺産 第074号『世界に先駆けた溶媒循環型分取GPC装置』

クロマトグラフィーの歴史は20世紀初頭ロシアの植物学者ツヴェットが植物色素の分離法を発見したことに始まり、化学の進歩に不可欠な技術として発展してきた。特にカークランドによる完全多孔性充塡剤はカラム性能を飛躍的に向上させ、今日の高速液体クロマトグラフィーによる高速・高分離そして微量分析化学の礎となっている。
ほぼ同時期に開発され1973年に上市された「溶媒循環型分取GPC装置LC-08型」は、有機合成された化合物の分離精製を飛躍的に短時間化、簡易化した画期的な分取用クロマトグラフである。非シリカ系GPCカラムを搭載し、精製したい目的成分を同一カラム内で分離するまで循環させる方法により、一度に最大1 gの疎水性化合物の分離・精製を可能にした。
LC-08型及びその後継モデルは、ノーベル化学賞受賞者(野依良治氏、北川進氏)を始め多くの著名な研究者の研究室に納入され、その研究成果の一翼を担うに至っている。
有機合成化学、天然物化学の進歩に多大な貢献をもたらし続ける「溶媒循環型分取GPC装置」の原型である本装置は化学遺産認定にふさわしい。

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化学と工業特集記事

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リサイクル分取GPC LC-08型
(日本分析工業株式会社 所蔵)

認定化学遺産 第075号『北海道大学総合博物館所蔵のチセリウス電気泳動装置』

電気泳動法が分析化学の方法として確立したのは、1937年にスウェーデンの生化学者ティセリウスが血清タンパク質分離の研究を発表したときとされている。
1946年東京大学医学部生化学教室の児玉桂三教授がこの方法に着目し、同研究室助手の平井秀松氏らが論文をもとに電気泳動装置を自作、1947年末に完成させた。翌1948年4月の日本生化学会総会で装置が公開されたことを契機に日立製作所が製作と販売を企画し、東京大学の指導のもと1949年1月にHT-A型チセリウス電気泳動装置、翌1950年4月にその改良型であるHT-B型が市販された。
本装置は1964年に北海道大学医学部生化学教室教授に就任した平井秀松氏の研究室で使われていたHT-B型の後継機であり完成型である1965年製の日立製作所製HTB-2A型チセリウス電気泳動装置である。本装置は門下の西信三氏らによって保管され、さらに多くの関係者の努力で北海道大学総合博物館に移設、展示されて現在に至っている。
本装置は血清タンパク質分画研究により分子分離の方法論の基礎を築いたチセリウス電気泳動装置を今に伝える貴重なものである。

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化学と工業特集記事

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日立製作所製HTB-2A型チセリウス電気泳動装置
(北海道大学総合博物館 所蔵)