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高等学校化学で用いる用語に関する提案(1)

 公益社団法人日本化学会(榊原定征会長)は,教育現場である高等学校の化学で改善が求められ,しかも疑義を感じる用語について最も適切と思える姿を検討し,今回の提案をまとめましたので,ご報告申し上げます。

 【概要】
教育・普及部門学校教育委員会に化学用語検討小委員会(委員長・渡辺 正 東京理科大学教授)を設置し,学校教育現場で問題となっている化学用語15語(高等学校『化学基礎』に収載の語)に関し,「現状」「提案」「理由・背景」を記した「高等学校化学で用いる用語に関する提案(1)」をまとめました。
 今後,高等学校化学教科書を刊行している教科書会社各社に反映していただけるよう協力を求めるとともに,弊会機関誌『化学と工業』誌,『化学と教育』誌,ホームページなどに載せて周知を図る所存です。
  メディア各社におかれましても,報道・編集等の際にご配慮いただきますよう,お願い申し上げます。
 また今後,提案(1)に含めなかった用語についても小委員会で引き続き検討し,今秋をめどに「高等学校化学で用いる用語に関する提案(2)」をまとめ,提案させていただく予定です。
 こうした提案が中高校化学教育の改善につながるよう願っております。

 【経緯】
 『化学と教育』誌に掲載された「昇華の逆過程」の呼称を提案する論文につき,賛否両論が出ました。また,中学校と高等学校で使う現行の教科書を調べたところ,疑義のある用語がいくつかあり,一部は教育現場でも問題になっていました。そこで,「日本化学会として何をすべきか」を文部科学省などと協議・議論した結果,そうした用語につき公式見解をまとめるのが望ましいと判断するに至りました。
 化学用語検討小委員会を設置し,教科書会社へのアンケート調査などを経て検討すべき用語を抽出ののち,小委員会の「案」をまとめました。その案を平成26年11月10日~12月24日の45日間,日本化学会Webページ上に載せて会員等の意見を徴し,結果を集約ののち議論を再び重ねてまとめた提案を,当会の理事会に諮りました。理事会の承認(平成27年2月5日)を受け,成案としたものが下記の提案です。

【提案内容】 (理由・背景なども記載した本文は別紙 pdfファイル

(A) 変更(または不使用)を提案する用語(9個)

  1. イオン式(英語ionic formula)
    【現状】高校教科書では,イオンの化学式を特別に「イオン式」と呼んでいる。
    【提案】「イオン式」は使わず,「化学式」を使う。

  2. 価標(英語bondは「結合」の意味で使われる)
    【現状】高校でほぼ例外なく使われる。教科書の1冊だけが,本文には「1本の線」と書き,脚注に「価標」を紹介している。【提案】特別な呼称をつけない(必要なら「線」,「結合」などと呼ぶ。「1個の原子から出る価標の数」は,「1個の原子がつくる結合の数」でよい)。

  3. 希ガス(対応する英語noble gas)
    【現状】すべての高校教科書が「希ガス」を使い,一部が「貴ガス」を併記している。
    【提案】海外の高校教科書が例外なく使うnoble gasに合わせ,「貴ガス」に変更する。

  4. 共有結晶(英語covalent crystal)
    【現状】一部の高校教科書で使われ,他の教科書では「共有結合の結晶」となっている。『学術用語集:物理学編・分光学編』には(なぜか)「共有結晶」の記載あり。
    【提案】「共有結合の結晶」か「共有結合結晶」とする。「共有結晶」は使わない。

  5. 金属の結晶(英語metallic crystal)
    【現状】多くの教科書に「金属結晶」と「金属の結晶」が混在している。
    【提案】「金属結晶」とする。

  6. 昇華の逆過程(英語deposition,desublimation)
    【現状】高校教科書は少し前まで長らく「"固体→気体"の逆過程も昇華」としてきた。現在は,"気体→固体"に対応する用語は記されていない。
    【提案】"気体→固体"は「凝華」と呼ぶ("固体→気体"は従来のまま「昇華」)。

  7. 絶対質量(英語 mass)
    【現状】多くの高校教科書中,相対質量を扱う際に(相対質量との対比で)使われる。
    【提案】たんに「質量」でよい。

  8. 融解塩電解(英語molten salt electrolysis,fused salt electrolysis)
    【現状】高校の教科書でほぼ例外なく使われる。「溶融電解ともいう」などの補足がある。
    【提案】「溶融塩電解」に統一する。

  9. 六方最密充塡(英語hexagonal close packing)
    【現状】結晶構造を示すのに「六方最密充塡」を使う教科書が多い(「六方最密構造」を併記した教科書もある)。
    【提案】「六方最密構造(hexagonal close-packing structure)」に一本化する。「六方最密充塡構造ともいう」,と「発展の注」をつけるのが望ましい。

(B) 変更(または不使用)を提案するが,今後も代替案を検討する用語(2個)

  1. イオン反応式(英語ionic equation)
    【現状】高校教科書では,イオンを含む化学反応式を「イオン反応式」と呼んでいる。
    【提案】「イオン反応式」は「イオンを含む反応式」などのように表記する。

  2. 標準状態(英語 standard state)
    【現状】ほぼすべての高校教科書が,気体の標準状態を「0 ℃,1.013 × 105 Pa」としている。
    【提案】「標準状態」という用語を使わない(「標準状態で1 L の気体」とせず,「0 ℃,1.013×105 Paで1 L の気体」とする)。

(C) 用法・使用範囲の見直しを提案する用語(4個)

  1. アルカリ土類金属(英語alkaline earth metals)
    【現状】高校教科書ではほぼ例外なく,「2族元素のうち,BeとMgを除く4個(Ca,Sr,Ba,Ra)をアルカリ土類金属という」と記載している。
    【提案】2族のすべてをアルカリ土類金属(アルカリ土類元素)と呼ぶ。ただし,「BeとMgを除くことがある」と付記してもよい。

  2. (イオンの)価数
    【現状】電荷†の絶対値にすぎない「価数」を太字で強調し,イオンの"分類表"などに明記している。「価数」は「酸・塩基」に対して用いられており,紛らわしい。
    【提案】イオンの「電荷」(英語charge)が定着するような記載に直す。「価数」を現状のまま使う場合は一般用語として扱い,太字にはしない(英語も付記しない)。

  3. 遷移元素(英語transition elements)
    【現状】3~11族元素の総称として使われる(高校化学で12族が除かれたのは1978年ごろ)。
    【提案】3~12(または3~11)族元素の総称として使用する。次の「注」をつける。
    [注]12族元素は,遷移元素に含める場合と含めない場合がある。

  4. 電子式(対応する英語Lewis symbol,Lewis structureなど)
    【現状】高校教科書ではほぼ例外なく使っている。
    【提案】学習の便宜のために「電子式」という語を残す場合は,一般用語として扱い,太字にはしない。 

注*は文部省『学術用語集・化学編(増訂2版)』(1976)に採録されている用語。

 

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