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【開催報告】「R&D懇話会245回」 大崎上島カーボンリサイクル実証施設見学会

2025年10月31日

 10月9日(木)と10月10日(金)の二日間の日程で、産学交流委員会(委員長、住田康隆(株式会社日本触媒))傘下の懇話会企画小委員会(委員長、下嶋敦(早稲田大学))の企画として、カーボンリサイクル実証研究拠点、ならびに産業技術総合研究所中国センターの見学会を実施した。

1. カーボンリサイクル実証研究拠点
 10月9日(木)には、カーボンリサイクル技術の現地理解を目的として、大崎上島にあるカーボンリサイクル実証研究拠点を見学した。大崎上島は、瀬戸内海のほぼ中央に位置する本州と橋でつながっていない離島である。そのため、今回の見学会では、本州側の最寄り港の一つである竹原港から貸切バスに乗車し、そのままフェリーで島へ渡った。参加者が定員上限の20名と多いことから、基礎研究エリアを除き、実証研究エリアと藻類研究エリアを見学した。
 はじめに、一般財団法人カーボンフロンティア機構大崎事務所の渡辺所長より、大崎上島と研究拠点の概要についてご説明いただいた。島の特徴として約7000人の島民が暮らしており、柑橘類の栽培が盛んなことや、公立の中高一貫校に全国から学生が集まり、今春に第一期生が卒業を迎えた話題などが紹介された。さらに、同拠点に隣接する大崎クールジェン株式会社から、純度99%のCO2がパイプラインを通して研究エリアに運ばれているとの言及があった。
 実証研究エリアでは、最初に株式会社ササクラによる海水由来のマグネシウムを用いたCO2固定化技術、具体的にはa)気-固接触、b)気-液接触、c)液-液接触法のそれぞれについて実際の設備を見ながらお話を伺った。続いて、広島大学らの研究グループによる微生物の二段階発酵によるCO2固定化法について、連続自動運転装置を前に見学した。これは、一段階目ではCO2とH2から嫌気発酵により酢酸を生成し、二段階目では生成した酢酸と酸素を用いた好気性発酵によって、健康食品や飼料などに応用可能な油脂を生成するというものである。
 最後に、2025年3月より微細藻類産業の評価機関として本格的に始動を開始している日本微細藻類技術協会(IMAT)を訪れた。同協会内では、培養株を管理するシード室、大培養室、収穫・乾燥室の順に見学を行った。シード室では、代表的な株としてスピルリナやクラミドモナスをはじめとする4種類があることや、大培養装置ではa)フラット型、b)チューブ型、c)レースウェイ型の各種の装置の特徴について、収穫・乾燥室では得られたバイオマスを前にしてご説明を伺った。微細藻類培養の評価方法について標準的な手法が確立されていないことから、同協会では微細藻類培養の産業応用を目指し、測定や分析手法、および条件設定等の標準化に取り組んでいるとの解説があった。

 
2. 産業技術総合研究所中国センター
 翌日の10月10日(金)には、参加者は広島県竹原から西条へ各自移動し、産業技術総合研究所中国センターの見学を行った。同施設の水門所長より、広島中央サイエンスパークに位置する同センターでは、機能化学研究部門として、a)材料診断、b)ナノセルロース、c)バイオの三分野における技術開発が進められていることが紹介された。素材-中間部材-セットメーカーの各社の間で、素材や部材に関する情報が十分に共有されず、議論がかみ合わないという課題がある。真のすり合わせを実現するためには、材料診断・評価技術の重要性が高まっているとの説明があった。
 その後、約20名の参加者は二つのグループに分かれて各研究開発事例を伺いながら同センターに設置されている最新鋭の設備を見学した。例として、国内では10台ほどしか導入されていない、薄膜などの内部構造を解析可能なAFM-IR装置について、メーカーの技術者が使いこなすことが難しく同センターで研修を受けているという説明もあった。

 参加者からは、「普段見る機会のない施設内部を見学できて有益だった」、「自社が納入した製品の使用状況を知ることができて良かった」といった感想が寄せられ、見学会は好評のうちに終了した。産学交流委員会では、今後もこのような見学会を企画し、産業界と学術界との技術交流をさらに深めていく方針である。

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(事務局 田口)