日本化学会

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高等学校化学で用いる用語に関する提案(3)

化学用語検討小委員会

 本小委員会は,おもに高等学校教科書と大学入試で使われてきた用語等のうち,用法に疑問を感じるもの約30個の「望ましい姿」を検討してきました。日本化学会(以下「本会」)ホームページに小委員会案を載せ,会員等からの意見を集約して成案化ののち,本会理事会の承認と文部科学省関係部署の了承を得たうえ,用語等15個の提案(1)を本会機関誌(『化学と工業』,『化学と教育』)の2015年4月号に,続く11個の提案(2)を2016年3月号に公表しました。なお以上26個の小委員会提案は,回答者の過半数から賛同が得られたもので,現在,一部が高等学校教科書等に反映されつつあります。

 提案(2)に至る意見募集(2015年7~8月)の際,法則名3個(気体反応の法則,定比例の法則,倍数比例の法則)には複数の改訂案を提示したところ,回答者の大多数が「現状からの変更に賛成」でした。3法則とも,大学以上で使う場面は(化学史関係を除き)ほとんどないが,高等学校ではほぼ例外なく使われます。いずれも成立から100年以上を経た現在,原義との整合性が悪い「誤訳」状態にあると判断でき,「21世紀後半の日本を担う世代のため,より適切な名称に変えるのが望ましい」という本小委員会の提案の趣旨が支持を得たものといえます。ただし改訂案に対する意見は分かれたため,回答者の支持ゼロの案を外して各法則の名称案をそれぞれ3個に絞り,改めて2016年3~4月に本会ホームページ上で2回目の意見募集を行いました。

1.気体反応の法則(英語law of combining volumes)

  【原義】気体どうしは一定の体積比で反応する。

  【提示案】反応体積の法則,反応体積比の法則,気体反応体積の法則

2.定比例の法則(英語law of constant proportion)

  【原義】化合物は一定の元素組成をもつ。

  【提示案】一定組成の法則,定組成の法則,組成一定の法則

3.倍数比例の法則(英語law of multiple proportion)

  【原義】化合物は(原子数が整数比の範囲で)多様な元素組成をもつ。

  【提示案】倍数組成の法則,倍組成の法則,組成倍数比の法則

への補足】共通の語proportionは(比例ではなく)組成比を表す。また,「定比例」「倍数比例」という数学用語は存在しない。なお1回目の意見募集で,台湾の高校教科書[葉名倉(主編)『普通高級中學 化學 上冊』南一書局,臺南,2006年]に使われている表記(それぞれ「定比定律」「倍比定律」)の邦訳版「定比の法則」「倍比の法則」を支持する回答者はいなかったため,2回目の意見募集では提示案から外した。

 2回目の回答にも多様性は見られたが,それぞれを1個に絞るのが学習者の便宜につながると考え,小委員会として以下のように提案する。

1.気体反応の法則

【2回目の意見分布と判断】支持率は「反応体積比の法則」>「気体反応体積の法則」>「反応体積の法則」となったため,1番目を採用する。

提案反応体積比の法則に変更する。

2.定比例の法則

【2回目の意見分布と判断】支持率は「組成一定の法則」>「一定組成の法則」>「定組成の法則」となったが,開きがわずかだったこともあり,語順を下記に合わせるのが好都合と判断して2番目を採用する。

提案一定組成の法則に変更する。

3.倍数比例の法則

【2回目の意見分布と判断】支持率は「倍数組成の法則」>「組成倍数比の法則」>>「倍組成の法則」となり,1番目と2番目にやや大きな差が認められたため,1番目を採用する。

提案倍数組成の法則に変更する。

本提案は2017年10月27日の本会理事会で承認されたため,本会機関誌に掲載するほか,化学教育と理科教育一般に関わる組織等(メディアを含む)経由で社会にも伝えていきます。本提案が中学校・高等学校化学教育の改善につながることを願います。

化学用語検討小委員会委員(○委員長)
 伊藤眞人(創価大学)
 井上正之(東京理科大学)
 歌川晶子(多摩大学附属聖ヶ丘高等学校)
 小坂田耕太郎(東京工業大学)
 梶山正明(筑波大学附属駒場中学校・高等学校)
 柄山正樹(東洋大学)
 久新荘一郎(群馬大学)
 後藤顕一(東洋大学)
 下井 守(東京大学名誉教授)
 杉村秀幸(青山学院大学)
 西原 寛(東京大学)
○渡辺 正(東京理科大学)
 渡部智博(立教新座中学校・高等学校)