次世代放射光施設「ナノテラス」と 放射光を利用した物質科学
化学の対象は,主に物質の長距離秩序である"構造"とバルクでの平均的な性質に留まっていたが,現在その興味は,ナノメートルオーダーでの"状態"や電子状態・結合様式の分布など,より精密で局所的な秩序とその変化に進化しつつある。2024 年度より運用を開始した次世代放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」による高輝度軟X 線測定は,こうした精密な状態の評価法として期待される。軟X 線は波長0.5~5 nm 程度の長波長側の低エネルギーのX 線で,これを用いた分光法では物質内の電子の状態やスピンならびに表面状態についての知見が得られる。本ヘッドラインでは,ナノテラスおよびその運用で進歩が期待される軟X 線分光法を中心に,その原理や機能性物質開発につながる応用事例などについて概説する。